六月号
 
○大祓について
    六月は一年の半ばに当たる月であるとともに、旧暦では今の七月から八月の初めに相当するため、夏の暑さによる体力減退や病気、また稲の生育の上では害虫の発生や水不足などが心配される時期である。
 
  そこでそうした諸々の災いを祓いやることで厳しい夏の盛りを乗り越えようとして始まった神事が「みなつき(六月)」の大祓である。これが今日六月から七月に集中して行われる祇園祭りや夏越祭に代表される夏祭りに発展したのである。
 
    思ふこと皆つきねとて麻の葉をきりに切りても祓ひつるかな
    みなつきの夏越の祓する人は千歳の命延ぶといふなり
    宮川の清き流れにみそぎせばいのれることの叶はぬはなし
    風そよぐ楢の小川の夕暮れはみそぎぞ夏のしるしなりける
 
  大祓行事の古い形は、今日宮中と全国の古社に受け継がれて、六月と十二月の晦日に行われている。その源流は遠く神武天皇時代にまで溯るとされ、国の重要な行事の前や不祥事の生じた後など、臨時に大祓が行われたもののようであるが、大化の改新後の国家制度の整備により六月と十二月という年二度の大祓が国家的行事として定まったものと思われる。
   
  古式の大祓はいわゆる大祓詞の読誦と祓行事の二つから成り立つ。大祓詞は本来神様に対して奏上するものでなく、神様の方から集まった人々に宣り聴かせるものであった。従って、古式では神様の代理役の神主が参列者に向かって読み聴かせる形をとる。また祓行事は木綿と麻布を祓つ物と称して備えた斎場で、麻を切り裂いて体に振りかけたり、人型(紙製の人形)に息を吹きかけ体をさすることで罪けがれを移し取るなどの作法を行うことである。
   
  夏越祭で一般に行う茅の輪くぐりにしても罪けがれを移し取ってもらう意味がある。茅、葦、麻、菅、笹などの植物には古来そうした霊的機能があるとされている。古代人の心眼にはそうした自然界の霊性が見通せたに違いない。古式の祭りはすべてそうであるが、目前の自然や生活、また身体動作の一つ一つに至るまでが神霊の働きと表裏をなしているという前提に立っている。だからこそ身の回りのあらゆるものを自然の秩序に逆らわず最も美しい形で最大限生かし切ることをめざした姿が祭りの形になっているのである。
   
  ここに我々が古い祭りを行ったり、それにふれたりすることで時代を越えた新鮮さとインスピレーションを感ずるゆえんがあろう。
   
○六月の祭典行事
    六月第一若しくは第二日曜日 午前十時半
      神饌田お田植祭<早乙女の田植舞など賑やかに挙行する>
    六月三〇日 午後四時
      大祓式<古式の大祓を全神職、巫女にて行う>